消化器疾患用キャットフードの特徴

下痢や嘔吐などの消化器疾患は、動物と共に生活していたら最低でも一回は遭遇するといっても過言ではないほど身近な疾患です。しかし、実はその消化器症状こそが他の重大な疾病の初期症状であったり、症状によって与えるべきフードの特徴が違ったりとなかなか深い疾患でもあったりします。よって今回はよく見られる消化器疾患とその療法食の特徴についてお教えしたいと思います。

嘔吐と吐出の違い

嘔吐とは、一言でまとめると「胃の中身を口から排出すること」と表すことができます。胃の中身といっても胃液だったり未消化物だったりと様々ですが、獣医師はよく、その種類によって嘔吐の原因を判断します。一過性の嘔吐だと、早食いによる空気や、空腹による胃液や胆汁の吐き出しを疑うことが多いですが、嘔吐が続く場合は精密検査を実地してその原因を突き詰める必要があります。原則として嘔吐を繰り返す場合はフードを与えずに点滴によって水分や電解質を補う輸液療法を行い、そして制吐剤などによって嘔吐が止まると流動食などから再開していくという流れが取られます。
吐出は「食道の内容物を排出すること」と表すことができます。嘔吐が早食いや空腹などの生理的な原因によって起こる可能性があるのとは違い、吐出は何らかの異常がなければ見られない状態です。よって吐出が見られた際は早急に原因を突き詰め、対処を行っていく必要があります。

下痢の種類も様々

糞便中の水分の量が正常なときよりも多い状態を下痢と呼びます。ある程度、糞便の形が残っているものを軟便、完全に液体状になっていて便の形が全くわからないものを水様便と分けたりしますが、獣医学的には小腸性と大腸性に鑑別することの方が大切です。
小腸性下痢とは、小腸の異常によって引き起こされる下痢をいい、一回あたりの糞便量が多く、排便の回数が少ないことが特徴です。小腸は主に食物の消化・吸収を行っているので小腸に異常があると栄養を吸収することができなくなり、重度の栄養不良が見られることが多く、危険性は増します。下痢が小腸性だとわかると、次は小腸のどこに何の異常が発生しているのか引き続き診断を進めていくことになりますが、その際に療法食として小腸で消化されやすい炭水化物を多く含むフードを与えるという方法がとられる場合があります。
大腸性下痢とは、一回あたりの糞便量が少なく、排便の回数が増えることが特徴で、また透明なゼリー状の粘液が便に付着するときもあります。大腸は主に、小腸で栄養素が消化・吸収された残りから水分を除いて糞塊を形成しています。大腸性の場合も原因を突き詰めていく必要がありますが、食物繊維を加えたフードによって改善される場合があります。これを食物繊維反応性下痢といい、消化器疾患用の療法食の中に食物繊維が多めに添加されているフードが多く存在している原因の一つとなっています。

猫によく見られる慢性便秘

猫は犬と比較して水分の摂取量が少ないため、便が固くなる傾向が多いですが、それとは別に結腸の運動機能が低下したことによって起こる重度の慢性便秘が見られる巨大結腸症という疾患があります。これは猫に多く、原因としては遺伝や事故による骨盤骨折によって引き起こされる結腸の圧迫、自律神経異常などを挙げることができますが、多くの場合は原因不明です。治療としては結腸の亜除去術などが行われますが、療法食として少量で十分なエネルギーを摂取することのできる高脂肪食を少量与える場合があります。普通、便秘の場合は食物繊維を増やすことが良いといわれていますが、巨大結腸症の場合には便の量を増やすことが悪化につながる可能性があるため、食物繊維の増量は行われていません。

食物アレルギーの場合

特定の食物を摂取することによって下痢や嘔吐、かゆみなどがみられる疾患を食物アレルギーといいます。普通、アレルギー物質を特定するためには血液検査によって各物質に対する抗体の量を調べる手段が取られますが、食物アレルギーの場合はこの検査のみで判断することは難しいといわれています。よって療法食として、今まで食べたことのないタンパク質を材料としている低アレルギー食や、タンパク質を予め短いペプチドという物質にまで分解してある加水分解食を与えて症状が改善するかどうかを見る必要があります。

立った状態で食べてもらう

食道が拡張しているために、食物を正常に送ることができないため吐出してしまう巨大食道症という疾患があります。原因として、筋肉の力が低下してしまう重症筋無力症や筋肉に炎症が起きる多発性筋炎などが挙げられますが、原因不明の場合が多く治療が難しい疾患の一つでもあります。この疾患の場合は、食事を数回に分けて与えることによって食道に貯留する食物の量をいかに最小限にすることができるかがポイントとなります。食事の選び方として、まず固形と流動食と、どちらがより食道を通過しやすいかを判断し、その後は、猫それぞれにあった、なるべく少量で必要なエネルギーや栄養素を摂取することができるフードを探します。フードの種類が決まれば、後は一度に与える量を最小限にすると共に、階段や縦だっこなどを利用して食事中や食後数十分は猫の体を縦にして、食物が食道を通過しやすくできるような状態を整えます。成長期の子猫ならば、大きくなるにつれ治っていく場合もありますが、ほぼ生涯つきあっていく可能性が高いため、無理なく継続していけるスタイルを探すことが重要です。

ご理解いただけたでしょうか?よく見られるからといって安心するのではなく、猫ちゃんに嘔吐や下痢などが見られたら、なるべく早急に獣医師の判断を仰いでくださいね。